挑発的に尖ったハイヒールのかかとが廊下と衝突し、小気味よい反響が聞こえる。

Uは無言で隣の座席につき、肘をつき、パラパラと講習会の資料をめくった。

俺は腕を組んで、スクリーンをじっと眺めていた。思慮深そうに眉間に皺を寄せてみたりしていたけれど、けっして考え事をしていたわけではない。

静まり返った講習会場では、ささやき声というものが存在しなくなる。どんなに注意深く小さな声で喋っていても、他人の耳は頑としてそこにあるのだ。

Uは細く長い手で、器用にペンを回していた。ペンが意思を持って踊っているようにすら見える。俺は純粋に「すごいね」と言いたかったし、そういうべきだとも思った。なにしろまだ講師は壇上に登っていないし、俺たちは既に顔見知りだし、なによりも、(少々大袈裟かも知れないが)その円舞が、本当に美しいと思ったからだ。

ただ、その純粋な興味の質問の発現させるには、沈黙の糸はあまりに張りつめ過ぎていた。一切の振動を許さないその静けさはいまにもはち切れんばかりで、極度の緊張状態にあった。なぜかは分からない。
ただ、そういう耐えられないほどの沈黙は確かに存在するし、現に存在していた。

俺は目を瞑って、Uの打ち鳴らせたハイヒール音を思い出していた。
ついさっき聞いたばかりなので、その音はとても鮮明に蘇ってきた。
鮮明すぎるほどに。

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